東京高等裁判所 昭和27年(う)3416号 判決 1953年1月20日
控訴人 被告人 池四郎兵衛
弁護人 浦本貫一
検察官 沢田隆義
主文
本件控訴はこれを棄却する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人浦本貫一提出の控訴趣意書記載のとおりであるから茲に之を引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。
右弁護人の控訴の趣意第一点について。
しかしながら、原判決は、被告人は法定の除外事由がないのにその生産にかかる昭和二十六年度産米につき食糧管理法第三条の規定により割当を受けた数量の米を政府に売渡す以前の判示の日時に判示の場所において自己の生産にかかる同年度産粳精米一石二斗を政府等所定の者以外の者である奥野金二に貸付名義を以て譲り渡した旨認定しているのであつて、その判示するところは弁護人主張のように単なる貸付と認定しているのではないのである。即ち原判決は食糧管理法施行規則第三十八条に関する立法の趣旨に論及した上本件のような所有権の移転を伴う引渡である以上単なる貸付と異なり、同規則にいわゆる譲り渡しに該当する旨判示しているのであり、本件のごとき貸付はいわゆる消費貸借に属し、目的物の所有権が貸主から借主に移転する場合であるから、食糧管理法施行規則第三十八条の適用に当つてはこれを譲渡と解するを相当とし、同条の違反行為の成立するためには必ずしも現実に供出を危くすることはこれを要しないものと解するを相当とするから原判決には所論のごとき理由不論若しくは理由のくいちがいがあるものということはできない。論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 花輪三次郎 判事 山本長次 判事 関重夫)
控訴趣意
第一点原判決は「……生産者がその生産した米、麦等を政府への売渡し所謂供出を完了する以前にこれが譲り渡しを禁止しているのは……完全に供出を確保せんとするにあつて……納期に完全供出を危くするような一切の処分はすべて禁止されているものと解すべきで従つて本件のような所有権の移転を伴う引渡しである以上貸付けもまた同規則に所謂譲り渡しに該当するものといわななければならない」と判示しているのである。
しからば本件の被告人の貸付行為が納期に完全供出を危くする行為であつたか否かにつき、原判決は理由を付せなければならないのである。しかるに原判決は被告人の供出納期は到来してなく未供出分は些かに一俵であつて、その供出米は原米を以てするもので本件の貸付米は被告人の食糧にせんとする粳精米の保有米である点から考えても供出を危くするような処分でなかつたのであるにかかわらず漫然本件の貸付だけが完全供出を危くする禁止行為であると判断したのは理由不備が理由のくいちがいがある。
(その他の控訴趣意は省略する。)